米空母を支える「鷹の目」
アメリカは軍事力を遠方まで展開できる「戦力投射能力」では他国に追随を許しておらず、それを構成するひとつの要素が原子力空母を中心とした空母打撃群です。
原子力空母が持つ航空戦力は、中小国の空軍力に匹敵するとも言われ、数々の紛争・戦争で米軍の軍事作戦を支えるとともに、アメリカの力の象徴になりました。
しかし、搭載している数十機の戦闘機だけでは、空母はその真価を発揮できず、航空戦力としても完成状態ではありません。F/A-18戦闘機などの航空打撃力を有効活用するには、上空から敵を探知して味方を誘導する早期警戒機、もしくは早期警戒管制機が必要なのです。
そのため、米海軍では「E-2Dアドバンスド・ホークアイ」という早期警戒機を空母で運用していますが、これは航空自衛隊も使っている早期警戒機「E-2Cホークアイ」の発展型です。
ここでは簡潔にとどめますが、米海軍のE-2CもE-2Dも基本的な役割は同じです。
水平線の影響で艦艇搭載型のレーダーの視野は限られるため、より高いところで早期警戒機が「空の目」を担わねばなりません。そこで、E-2C/Dは高度9,000m近くで警戒監視を行いつつ、敵を見つけたら戦闘機部隊に連絡して空母を守ります。
いくら最新の「ジェラルド・R・フォード級」原子力空母を持っていても、適切な警戒監視能力がなければ、脆弱な空母はリスクにさらされます。
この役目を果たすためにE-2Dはステルス機も捉えられる最新レーダーを搭載しており、探知距離も550km以上まで伸びました。しかも、移動式の地対艦ミサイルにも対応しているので、空母打撃群に対する脅威をより正確につかめます。
連続滞空時間も空中給油機能のおかげで最大7時間まで延長されたほか、昨今の統合運用には欠かせないリアルタイムで連携して戦う共同交戦能力(CEC)も追加される見通しです。米海軍はすでにイージス艦からのSM-6迎撃ミサイルをE-2Dが誘導する実験に成功しました。
E-2シリーズは中型のターボ・フロップ機でありながら、空母艦載機として短い距離で運用せねばならず、他の航空機と同じように出撃時はカタパルトを使い、着艦時は備え付けフックをワイヤーに引っかけて停止させます。中型機といえども、実際に目の当たりにすると大きく、本当に止まれるのかヒヤヒヤするものです。
E-2Dは珍しい存在?
ところで、空母というのは早期警戒機が必要と述べましたが、E-2Dのようなターボ・フロップ機を艦上運用している国はあまりなく、あとはフランスの原子力空母「シャルル・ド・ゴール」ぐらいです。
例えば、イギリスの「クイーン・エリザベス級」空母はヘリコプター型の早期警戒機を使い、イタリアやインドも同様です。ロシアは当初こそ固定翼型を目指したものの、開発難航を受けて「アドミラル・クズネツォフ」にはヘリ型を載せました。
一方、空母建造に力を入れている中国は、現時点ではヘリ型にとどまっていますが、E-2Dのようなターボ・フロップ型を開発中です。
むろん、ヘリ型も悪くはないのですが、速度や航続距離、基本性能ではターボ・フロップ機には及びません。これは空母化された「いずも型」護衛艦にも通ずる点で、E-2C/Dの搭載が難しい以上はヘリ型を選ぶしかありません。
ほかには、「空母いぶき」で描かれたように陸上基地から飛来する早期警戒機・早期警戒管制機に頼る方法があります。しかし、このケースだと空母の活動範囲は陸上基地からの支援を受けられるエリアに限られてしまいます。
こうした点を考えると、高性能なターボ・フロップ型の早期警戒機を使える国は少なく、アメリカの強さを支えるひとつの要因でしょう。
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