目的・用途不明の放送
電波放送は日常生活のみならず、軍事活動でもよく使われる通信手段ですが、なかには何に使われているのか全く分からないものがあります。
その代表例ともいえるのが「UVB-76(別名:ザ・ブザー)」であって、これは単調なブザー音を流し続けるロシアの短波放送です。怪しい電波として旧ソ連時代からアマチュア無線界で有名になり、不定期で流れる意味不明な音声メッセージがさらに疑問を呼びました。
スパイに指令を出す乱数放送説、「ブザー音が途切れる=核攻撃」を意味する報復システム説、周波数の使用を防ぐチャンネル・マーカー説など、いろんな仮説が登場したものの、その謎はいまだ解明されていません。
ロシア(旧ソ連)ならではの不気味さがありますが、じつはこうした怪電波は日本にも存在します。
それが「Japanese Slot Machine」というもので、パチンコのような受信音から名付けられました。ロシアのUVB-76と違って、こちらは自国のものでありながら、日本ではあまり知られておらず、最初に発見したのも海外の無線マニアでした。
その発信元は海上自衛隊の市原送信所(千葉)と串良送信所(鹿児島)であり、数字データだけが流れる内容は解読されていません。
在外スパイへの放送説
事実上の軍隊である以上、自衛隊が暗号放送を使うのは不思議ではありません。
Japanese Slot Machineは低い周波数帯を使うため、天候の影響を受けにくいとともに、電波が減衰しづらいことから、小出力でも遠くまで届きます。一方、伝送できる情報量は高周波帯より少なく、遠隔地ともなれば電波品質は期待できません。
では、この低周波帯の放送は何のためにあるのか?
まず、その存在が確認されたのは2001年ですが、ちょうどインド洋での給油活動が始まった頃です。しかしながら、一般的な衛星通信ではなく、デジタル変調の暗号文を使う理由は少なく、対テロ戦であればなおさらでしょう。
ほかにも、遠方にいる潜水艦への通信、周波数帯の確保など、さまざまな目的が取りざたされるなか、有力視されているのが在外諜報員(スパイ)への乱数放送説です。
乱数放送といえば、北朝鮮工作員向けのものが有名ですが、日本が外国でスパイ活動している可能性は十分あります。歴史をたどれば、旧日本海軍も対米開戦前にハワイに密偵を放ち、真珠湾の配備状況を調べていました。
戦後日本は諜報が弱点とされるなか、公安や内閣情報調査室は冷戦期に防諜(カウンターインテリジェンス)でそれなりの実績をあげてきました。
こうした事実をふまえると、逆に相手国に潜入調査をしていても、別におかしくはなく、むしろ国家としては自然な行為です。
「別班」のような自衛隊の秘密組織が海外にいるかもしれず、Japanese Slot Machineは諜報員・工作員への暗号指令を出しているとも考えられます。
なぜ海自なのかという疑問は残るとはいえ、これも真の目的を隠すカモフラージュの一種かもしれません。

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