対中国の切札のひとつ
台湾は1950年代から中国と対峙しており、冷戦期は対共産圏の防波堤として、アメリカの支援を受けていました。ところが、1979年の米中国交正常化にともない、徐々にアメリカの対中配慮が目立ち、台湾への武器輸出を渋るようになりました。
その結果、台湾は国産兵器の開発に取り組み、1970年代に「雄風(ゆうふう)」という対艦ミサイルが登場します。1990年代には「雄風2型」をつくり、後継の開発に成功するなか、次は超音速の「雄風3型」を目指しました。
- 基本性能:「雄風3型」対艦ミサイル
重 量 | 1,500kg |
全 長 | 6.1m |
直 径 | 0.46m |
速 度 | マッハ2.5(時速3,000km) |
射 程 | 約120〜150km(延伸型は400km) |
弾 頭 | 約225kg |
価 格 | 1発あたり約1億円 |
まず、雄風3型の起源は1994年頃までさかのぼり、当時は防空ミサイル(天弓)の成果をふまえて、新しいエンジンを研究していました。その後、この研究が雄風3型に統合されて、2005年には開発が完了します。言いかえると、雄風3型は対空ミサイルの技術を受け継ぎ、それをエンジン部分に応用した形です。
2007年頃には生産が始まり、フリゲートなどに搭載されたとはいえ、中国海軍の急拡大を受けて、2010年代に量産体制を強化しました。現在は70発/年のペースで量産が進み、計500〜600発はあると言われています。
ミサイルは発射されたあと、自身の慣性装置で途中まで進み、最後は自らの電波でとらえながら、マッハ2.5以上の超音速で突入します。台湾初の超音速ミサイルとして、従来より敵に反応時間を与えず、いわゆる「空母キラー」として期待されています。
発射される雄風3型(出典:台湾海軍)
なお、地対艦型はトラックで機動展開するほか、内陸部・山間部からも狙えるため、侵攻部隊にとっては大きな脅威です。巡洋艦モスクワの撃沈で分かるとおり、地対艦ミサイルの脅威は変わらず、亜音速の巡航ミサイルでさえ、状況次第では全然使えます。
亜音速が通用するならば、超音速は言うまでもなく、台湾側も量産を加速させながら、空中発射型や射程延伸型を計画するなど、いまや対中国の貴重な切り札です。
誤射で性能がバレる
ところで、雄風3型は実戦経験がない代わりに、「誤射事件」で思わぬ性能が露呈しました。
これは2016年の軍事演習において、海軍の哨戒艇が誤ってミサイルを放ち、100km先の小型漁船に命中しました。この事件で1人が亡くなり、3人が負傷したものの、雄風3型の命中精度が証明されました。
ミサイルは誤射されたあと、わずか2分間で100km近くを飛び、自分で目標を捜索・捕捉しながら、高さ3〜4mの低空で突入したようです。
海上を動く小型船という、性能試験より悪条件にもかかわらず、普通に捕捉・命中しており、思いのほか高性能なのがバレました。小型漁船に命中するならば、通常の軍艦相手はなおさら問題なく、中国側は大きな衝撃を受けたそうです。
いずれにせよ、中国は対策を余儀なくされたり、懸念材料が増えたのは否めず、想定外の示威効果をもたらしました。

コメント