いずもと比較!「アメリカ級」強襲揚陸艦の気になる能力

アメリカ級強襲揚陸艦 アメリカ
この記事は約5分で読めます。

再設計による性能差

アメリカ海軍の象徴といえば、原子力空母とその航空戦力ですが、戦力投射という意味では、強襲揚陸艦も忘れてはなりません。

強襲揚陸艦は空母に似ているものの、輸送ヘリと上陸用舟艇を運用しながら、一定の地上兵力を送り込めます。特に海兵隊などで殴り込み、奇襲的な上陸作戦を行う場合、強襲揚陸艦の果たす役割は大きく、米軍の世界展開を支えてきました。

それゆえ、米軍では長らく強襲揚陸艦を使い、ほぼ全ての紛争・戦争に投入するなか、いまは9隻体制になりました。このうち、「ワスプ級」が7隻を占めるなか、最新の「アメリカ級」の建造も進み、順次更新が図られています。

今回はこのアメリカ級をみていきましょう。

  • 基本性能:「アメリカ級」強襲揚陸艦
フライト0 フライト1
排水量 45,693t 50,000t
全 長 257.3m
全 幅 32.3m
乗 員 1,060名+海兵隊1,687名
速 力 20ノット以上(時速37km)
兵 装 20mm CIWS×2
ESSM発射機(8連装)×2
SeaRAM(21連装)×2
25mm機関砲×3
12.7mm機関銃×7
揚陸艇 LCAC揚陸艇×2
医療機能 手術室×2、病床×24、歯科治療室×4
艦載機 MV-22オスプレイ、CH-53輸送ヘリ、
AH-1Z攻撃ヘリ、F-35B戦闘機など
建造費 1隻あたり約5,000億円

アメリカ級の建造は2009年に始まり、計11隻が予定されていますが、1〜2番艦とそれ以降では設計が違い、同じ艦級でも性能差が生じました。

ワスプ級(最終艦)の設計を受け継ぎ、変更を加えた発展型とはいえ、当初は航空運用能力を強化すべく、上陸用舟艇のウェルドックをなくしました。その結果、格納庫は約50%も広くなり、航空機と整備部品、兵器、燃料の搭載量が増えます。

その代わり、ウェルドックの廃止で揚陸能力が落ち込み、強襲揚陸艦としての存在意義が疑問視されました。海兵隊からの文句もあってか、3番艦からはウェルドックが復活しており、最初の2隻を「フライト0」、3番艦以降は「フライト1」と分類されます。

航空運用能力はアップ

フライト0、フライト1にせよ、どちらも長さ250mの飛行甲板を持ち、約40機ものオスプレイ輸送機、あるいは20機以上のF-35戦闘機を搭載できます。甲板の長さはF-35Bの運用上は問題なく、帰りはそのまま垂直に着艦する仕組みです。

上陸戦を行う強襲揚陸艦である以上、輸送ヘリ・攻撃ヘリを基本編成に組み込み、通常時のF-35は10機以下になります。

アメリカ級強襲揚陸艦F-35とオスプレイの運用(出典:アメリカ海軍)

この編成と数は任務次第で変わり、軽空母(ライトニング空母)として使う場合、最大20〜25機のF-35を満載可能です。原子力空母には劣るとはいえ、F-35×20〜25機が脅威なのは変わらず、敵にとっては無視できない軽空母、使う側は正規空母よりは投入しやすいです。

なお、日本の「いずも型」護衛艦と比べると、全長はアメリカ級の方が長く、排水量は2万トン近い差があるうえ、 F-35の搭載数でも10機以上は劣ります。

揚陸能力は落ちた?

肝心の揚陸機能を説明すると、当初はウェルドックを持たず、収容能力が激減したことから、上陸部隊の車両・装備用のスペースも減りました。

しかし、フライト1でのウェルドック復活を受けて、上陸用舟艇を使えるようになり、LCAC揚陸艇が2隻は入ります。ただ、これはワスプ級と比べて1隻少なく、車両用スペースも減少しました。

上陸部隊の人数こそ維持したものの、医療能力もワスプ級の2/3に落ち、病床数は「いずも型」の35床より少ない24床です。

つまるところ、純粋な強襲揚陸艦という意味において、ダウングレードしたと言わざるを得ません。

システムと機関は強化

次に兵装面をみると、基本的にはワスプ級と変わらず、ESSMミサイルとSeaRAM、CIWSを組み合わせながら、最低限以上の個艦防空能力を備えました。小型船による自爆テロも考えてか、3門の25mm機関砲を持ち、12.7mm機関銃を7つも配置しました。

一方、兵器システムの中身は更新しており、新しいレーダーと射撃管制システム、情報処理機能を搭載しています。さらに、上陸部隊向けのシステムとして、野砲の戦術処理能力を持ち、地上部隊と連携しやすくなりました。

推進機関ではディーゼル、ガスタービンを組み合わせながら、後者の燃料をオスプレイ向けの航空燃料、そしてLCACの燃料と共通化しています。普段はディーゼルを使いつつ、高速航行時はガスタービンに切り替わり、ワスプ級と比べて燃費改善も進みました。

今後の行方について

紆余曲折と再設計により、むしろ揚陸能力が落ちたわけですが、近年の迷走ぶりを表すひとつの事例です。結局のところ、航空運用能力に重点を置き、軽空母的な要素を強めたがゆえに、揚陸艦の部分が犠牲になりました。

ウェルドックを復活させたとはいえ、再設計にともなう変更は高くつき、コスト削減の狙いも吹き飛びました。

さはさりながら、議会での予算承認は順調に進み、強襲揚陸艦としてはともかく、強力な軽空母なのは変わりません。対中国戦では「使いやすい」とされるなか、太平洋戦争時の護衛空母群と同じく、神出鬼没の厄介な存在になりそうです。

また、「フライト2」のウワサも飛び交い、甲板上の配置を変えながら、飛行甲板の能力を20%引き上げるそうです。もし実現すれば、離発着用のスポットが増えるほか、露天駐機で全体の機数も増やせます。

強襲揚陸艦にF-35Bを満載?ライトニング空母とは何か
「F-35B×20」で軽空母化 アメリカ海軍の強さの秘訣は、最新鋭の「ジェラルド・フォード級」をはじめとする11隻の原子力空母にありますが、10隻以上...

コメント

タイトルとURLをコピーしました