再設計による性能差
アメリカ海軍の象徴といえば、原子力空母とその航空戦力ですが、戦力投射という意味では、強襲揚陸艦も忘れてはなりません。
強襲揚陸艦は空母に似ているものの、輸送ヘリと上陸用舟艇を運用しながら、一定の地上兵力を送り込めます。特に海兵隊などで殴り込み、奇襲的な上陸作戦を行う場合、強襲揚陸艦の果たす役割は大きく、米軍の世界展開を支えてきました。
それゆえ、米軍では長らく強襲揚陸艦を使い、ほぼ全ての紛争・戦争に投入するなか、いまは9隻体制になりました。このうち、「ワスプ級」が7隻を占めるなか、最新の「アメリカ級」の建造も進み、順次更新が図られています。
今回はこのアメリカ級をみていきましょう。
- 基本性能:「アメリカ級」強襲揚陸艦
フライト0 | フライト1 | |
排水量 | 45,693t | 50,000t |
全 長 | 257.3m | |
全 幅 | 32.3m | |
乗 員 | 1,060名+海兵隊1,687名 | |
速 力 | 20ノット以上(時速37km) | |
兵 装 | 20mm CIWS×2 ESSM発射機(8連装)×2 SeaRAM(21連装)×2 25mm機関砲×3 12.7mm機関銃×7 |
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揚陸艇 | – | LCAC揚陸艇×2 |
医療機能 | 手術室×2、病床×24、歯科治療室×4 | |
艦載機 | MV-22オスプレイ、CH-53輸送ヘリ、 AH-1Z攻撃ヘリ、F-35B戦闘機など |
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建造費 | 1隻あたり約5,000億円 |
アメリカ級の建造は2009年に始まり、計11隻が予定されていますが、1〜2番艦とそれ以降では設計が違い、同じ艦級でも性能差が生じました。
ワスプ級(最終艦)の設計を受け継ぎ、変更を加えた発展型とはいえ、当初は航空運用能力を強化すべく、上陸用舟艇のウェルドックをなくしました。その結果、格納庫は約50%も広くなり、航空機と整備部品、兵器、燃料の搭載量が増えます。
その代わり、ウェルドックの廃止で揚陸能力が落ち込み、強襲揚陸艦としての存在意義が疑問視されました。海兵隊からの文句もあってか、3番艦からはウェルドックが復活しており、最初の2隻を「フライト0」、3番艦以降は「フライト1」と分類されます。
航空運用能力はアップ
フライト0、フライト1にせよ、どちらも長さ250mの飛行甲板を持ち、約40機ものオスプレイ輸送機、あるいは20機以上のF-35戦闘機を搭載できます。甲板の長さはF-35Bの運用上は問題なく、帰りはそのまま垂直に着艦する仕組みです。
上陸戦を行う強襲揚陸艦である以上、輸送ヘリ・攻撃ヘリを基本編成に組み込み、通常時のF-35は10機以下になります。
F-35とオスプレイの運用(出典:アメリカ海軍)
この編成と数は任務次第で変わり、軽空母(ライトニング空母)として使う場合、最大20〜25機のF-35を満載可能です。原子力空母には劣るとはいえ、F-35×20〜25機が脅威なのは変わらず、敵にとっては無視できない軽空母、使う側は正規空母よりは投入しやすいです。
なお、日本の「いずも型」護衛艦と比べると、全長はアメリカ級の方が長く、排水量は2万トン近い差があるうえ、 F-35の搭載数でも10機以上は劣ります。
揚陸能力は落ちた?
肝心の揚陸機能を説明すると、当初はウェルドックを持たず、収容能力が激減したことから、上陸部隊の車両・装備用のスペースも減りました。
しかし、フライト1でのウェルドック復活を受けて、上陸用舟艇を使えるようになり、LCAC揚陸艇が2隻は入ります。ただ、これはワスプ級と比べて1隻少なく、車両用スペースも減少しました。
上陸部隊の人数こそ維持したものの、医療能力もワスプ級の2/3に落ち、病床数は「いずも型」の35床より少ない24床です。
つまるところ、純粋な強襲揚陸艦という意味において、ダウングレードしたと言わざるを得ません。
システムと機関は強化
次に兵装面をみると、基本的にはワスプ級と変わらず、ESSMミサイルとSeaRAM、CIWSを組み合わせながら、最低限以上の個艦防空能力を備えました。小型船による自爆テロも考えてか、3門の25mm機関砲を持ち、12.7mm機関銃を7つも配置しました。
一方、兵器システムの中身は更新しており、新しいレーダーと射撃管制システム、情報処理機能を搭載しています。さらに、上陸部隊向けのシステムとして、野砲の戦術処理能力を持ち、地上部隊と連携しやすくなりました。
推進機関ではディーゼル、ガスタービンを組み合わせながら、後者の燃料をオスプレイ向けの航空燃料、そしてLCACの燃料と共通化しています。普段はディーゼルを使いつつ、高速航行時はガスタービンに切り替わり、ワスプ級と比べて燃費改善も進みました。
今後の行方について
紆余曲折と再設計により、むしろ揚陸能力が落ちたわけですが、近年の迷走ぶりを表すひとつの事例です。結局のところ、航空運用能力に重点を置き、軽空母的な要素を強めたがゆえに、揚陸艦の部分が犠牲になりました。
ウェルドックを復活させたとはいえ、再設計にともなう変更は高くつき、コスト削減の狙いも吹き飛びました。
さはさりながら、議会での予算承認は順調に進み、強襲揚陸艦としてはともかく、強力な軽空母なのは変わりません。対中国戦では「使いやすい」とされるなか、太平洋戦争時の護衛空母群と同じく、神出鬼没の厄介な存在になりそうです。
また、「フライト2」のウワサも飛び交い、甲板上の配置を変えながら、飛行甲板の能力を20%引き上げるそうです。もし実現すれば、離発着用のスポットが増えるほか、露天駐機で全体の機数も増やせます。

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