国産潜水艦飛躍させた傑作
潜水艦は海中に隠れながら、空母でさえ撃沈できるため、どの海軍にとっても大きな脅威です。「どこにいるか分からない」という心理的不安を生み、それだけで行動を制約できる戦略兵器といえます。
とりわけ日本は太平洋戦争で対潜戦に苦しみ、大量の商船や軍艦を沈められました。そんな日本が戦後は潜水艦重視になり、対潜能力の向上とともに、国産潜水艦の開発に注力したのは当然の帰結でした。
そして、その国産潜水艦を世界標準どころか、最高峰のレベルまで引き上げたのが、海上自衛隊の「おやしお型」潜水艦です。登場から25年が過ぎたにもかかわらず、通常動力型の潜水艦としては、いまだ一流の性能を誇ります。
- 基本性能:「おやしお型」潜水艦
排水量 | 2,750t (基準) |
全 長 | 82m |
全 幅 | 8.9m |
乗 員 | 70名 |
速 力 | 水上:12ノット (時速22.2km) 水中:20ノット (時速37km) |
深 度 | 約650m |
兵 装 | 533mm魚雷発射管×6 ・89式魚雷 ・ハープーン対艦ミサイル |
価 格 | 1隻あたり約520億円 |
海自では1980年代にP-3C哨戒機が導入されると、対潜訓練で潜水艦が次々と発見・撃破される事態が起きました。この「P-3Cショック」で海自は大きな危機感を抱き、潜水艦の性能不足を克服すべく、静粛性を高めた新型の開発を急ぎます。
これが「おやしお型」の誕生につながり、海自初の葉巻型船体を持つとともに、新しい吸音材で隠密性を大きく向上させました。「日本潜水艦=静か」のイメージを定着させた傑作ですが、多方面探知ができる新型ソナーを持ち、それに合わせて情報処理能力も強化しました。
さらに、従来より速いスピードで攻撃可能になり、最大6本の魚雷を同時誘導できるほか、ハープーン対艦ミサイルの発射や機雷敷設も行えます。
能力拡張による負担増を抑えるべく、機関部と注排水作業の一部は自動化されており、操舵要員も2名から1名に変更されました。その結果、乗員数は前級の「はるしお型」と比べて5名減り、現在まで受け継がれている省人化の先駆けにもなりました。
潜水艦としては「一流」
「おやしお型」は計11隻が建造されましたが、そのうち1隻は退役済み、2隻は練習潜水艦に変更されました。残り8隻は現役で活躍しており、「そうりゅう型」とともに潜水艦隊の主力を務めています。
しかしながら、最新の「たいげい型」の就役にともない、今後は入れ替わる形で順次退役していく予定です。
「おやしお」型潜水艦(出典:海上自衛隊)
一方、「おやしお型」の最高齢は25年であって、世界的には全然使えるどころか、若い部類にさえ入る潜水艦です。日本は造船所の技術力を維持すべく、毎年1隻の潜水艦を造り、それに押し出される形で1隻は現役を退きます。
あと10〜15年は性能的に使えるため、このような若年退役はもったいなく、他国から見れば「ぜいたくすぎる」運用です。
同じ中国と対峙しながら、海軍力の強化を急ぐ台湾やフィリピンにとって、「おやしお型」はノドから手が出るほどほしいでしょう。
また、オーストラリアも潜水艦隊の近代化を急ぎ、過去には「おやしお型」の導入を検討したことがあります。最終的にはアメリカの支援を受けながら、原子力潜水艦の保有が決まり、日本潜水艦の採用はなりませんでした。
それでも、一時期は「そうりゅう型」が有力候補に上がり、原潜就役までのつなぎとして「おやしお型」を導入する案も浮上しました。
対中国という点では、台湾やオーストラリアの潜水艦増強は好ましく、防衛装備品の輸出にも弾みをつけるでしょう。ただ、潜水艦は最高級の国家機密にあたり、日本としてはそう易々と輸出できません。
いずれにせよ、「おやしお型」は世界的にはまだ若く、他国が欲しがる性能を有しているといえます。
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核搭載のトマホーク発射システムを願います。