「いずも型」護衛艦の空母化改造とそのF-35搭載数

いずも型護衛艦 海上自衛隊
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搭載機数と今後の課題

さて、ここ気になる搭載機数について。単純に載せるだけならば、飛行甲板上に6〜8機、格納庫には10機近くが入ります。

しかし、戦闘機のみを使うわけにはいかず、哨戒ヘリなども欠かせません。任務で内訳と機数は変わるものの、F-35Bだけの搭載は考えづらく、通常の編成は10機前後になるでしょう。

問題は「いずも型」の飛行甲板は横幅が狭く、ヘリの待機場所とF-35Bの発艦ラインが被ること。同時運用は不可能ではないにせよ、F-35の運用中はヘリの待機が厳しく、現場での難しいやりくりは避けられません。

思い切ってF-35Bだけを積み、哨戒ヘリは他に任せる手はあれども、代替候補の「ひゅうが型」は2隻しかなく、汎用護衛艦では不足分を補えません。

いずも型護衛艦とF-35B戦闘機F-35Bの搭載(出典:海上自衛隊)

また、船のレーダーは水平線の影響を受けやすく、低空目標は30〜40km先でしか探知できません。だからこそ、早期警戒機のアシストが欠かせず、アメリカの空母は固定翼機のE-2警戒機、イギリスは早期警戒ヘリを用いてきました。

されど、「いずも型」は早期警戒機の話が出ておらず、どうするのかは不明です。

あり得る選択肢を考えると、以下のようになります。

  1. 航空自衛隊の早期警戒管制機に頼る
  2. イギリス空母のように早期警戒ヘリを使う
  3. V-22オスプレイの早期警戒型(EV-22)を使う

「空母いぶき」でも艦載型は見られず、空自に頼る描写がありました。日本周辺で活動する場合、空自の基地から早期警戒管制機が飛び、そのまま連携しても問題ありません。

ただ、これが遠隔地や海外派遣になると、やはり自前で搭載・運用した方がよく、今後の動きに注目が集まります。ちなみに、EV-22は開発すら始まっておらず、空自機は陸上基地に依存する以上、現時点では早期警戒ヘリが最も現実的です。

同じ空自関連の課題をあげると、「いずも型」向けのF-35Bは計42機を買い、宮崎県・新田原基地に配備しますが、これは新たに創設した部隊ではなく、既存の飛行隊を転用したものです。

本来はスクランブル発進など、通常の空自任務にあてるべきところ、艦載機として「いずも型」に乗り込み、長期航海に駆り出される構図です。戦闘機の定数が同じにもかかわらず、艦載機として空母の任務に付き合えば、その分だけ本土の防空に穴が空き、空自の負担が増えるのは否めません。

空自側は本心では納得しておらず、海外派遣のような長期航海の回避を狙い、海自との折衝が激しくなるはずです。

本来はいらない?

では、軽空母はどのような役割を果たすのか?

その使い道はかつての護衛空母に近く、南西諸島方面に増援を送り込み、防衛上の空白地帯、特に大東諸島〜小笠原諸島の海・空域をカバーできます。

本来であれば、南西諸島や離島に基地を置き、陸上・航空戦力を配備するのが理想です。言うまでもなく、地上基地は船と違って沈まず、1発の被弾で戦闘不能にはなりません。

この利点は自衛隊も認識しており、ここ15年間で新しい基地を相次いで築き、対艦・対空ミサイル部隊を新設しました。

一方、航空基地に限ると、南西諸島は空港は多いものの、戦闘機が使えそうなのは那覇と下地島ぐらいしかなく、実際に配備している那覇基地だけです。下地島空港は長い滑走路を持ち、防衛上は理想的な位置にもかかわらず、沖縄県と軍事基地化しない覚書を結び、現状では戦闘機部隊は配備できません。

なお、各島の空港設備を拡張、滑走路を延長すれば、航空戦力の展開先は増えるも、地元の理解・協力を得るのが難しいです。

沖縄県での新基地建設は特に難しく、いま進めている陸自部隊の配備でさえ、多くの紆余曲折がありました。爆音を出す戦闘機の配備になると、沖縄県を筆頭に猛烈な反対運動が起こり、基地の建設はほとんど進みません。

これらの事情をふまえると、南西諸島の「不沈空母化」が望ましいとはいえ、地元の感情的に実現性が低く、なんとか「軽空母」の航空戦力で補う形です。

逆にいえば、南西諸島に基地のネットワークをつくり、同方面の航空戦力を増強できれば、あえて空母を持つ必要はなかったといえます。

練習空母、海軍外交の役目

一方、海自にとって悲願の初空母とはいえ、それは運用面では「初めて」の連続です。

ヘリと戦闘機では扱いが異なり、まずは乗組員がどういう風に動くのか、その基本から学ばねばなりません。その後、時間をかけて習熟訓練を繰り返すと、ようやく戦闘機を安定・安全運用できます。

それゆえ、「いずも型」は練習空母の意味合いが強く、次に向けた経験を積む点でいえば、中国海軍の空母「遼寧」に近いです。「いずも型」で改善点を洗い出したあと、次期空母を検討すると思われます。

いずも型護衛艦
(出典:海上自衛隊)

ただ、海自は深刻な人手不足に苦しみ、さらに本格的な空母を運用できるかは分かりません。予算の増額はともかく、将来的な人員増は見込めず、限られた資源を効果的に使うならば、潜水艦と多機能艦にふり向けた方が賢明です。

いずれにせよ、当面は「いずも型」でノウハウを積み、必要性と実現性のかね合いを見ながら、次期空母の建造を思案するでしょう。

さらに、練習空母という役割以外にも、「いずも」「かが」は海自のシンボルでもあります。交互に南シナ海やインド洋に送り込み、日本のプレゼンスを示したり、国際親善による「海軍外交」を担ってきました。

この任務は改修後も変わらず、戦後初の日本空母が南シナ海で訓練すれば、その歴史的意義は言うまでもなく、他国にインパクトは計り知れません。この海軍外交における存在感、メッセージ性では他の護衛艦は敵わず、空母にしかできない役目を果たせます。

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