多目標と同時交戦可能
「イージス艦」という言葉はよく聞くものの、通常の護衛艦と比べて、どこがどう違うのでしょうか？
北朝鮮のミサイル問題で登場するため、弾道ミサイル防衛用と考える人が多く、実際に半分正解といったところでしょう。しかし、本来のイージス艦は弾道ミサイルではなく、大量のミサイル攻撃から味方艦隊を守る存在でした。
まず、名前の由来から説明すると、「イージス（Aegis）」とは古代ギリシア神話に出てくる言葉です。神話の中で女神・アテナは「アイギス」という盾を使い、それは魔除け能力を秘めた「神の盾」でした。
このような神話にあやかって、現実世界ではアメリカがソ連のミサイルから艦隊を守るべく、最強の盾として1960〜70年代に開発しました。
ソ連は同時に100発以上の対艦ミサイルを放ち、米海軍の防空能力を飽和攻撃で圧迫、崩壊させる戦術を目指しました。同時に迎撃可能なのが2発程度だった点を考えると、動きを察知したアメリカは大きく焦ります。
そこで、従来の防空システムを凌駕する性能を持ち、同時に多数の標的を撃ち落とせるイージス計画に取り組み、1983年には「タイコンデロガ」が世界初の実用イージス艦として就役しました。
その防空システムは128個以上の目標をとらえながら、脅威度の高い12個を同時に撃墜できる画期的なものした。目標の捕捉と追尾に加えて、迎撃ミサイルの管制誘導を同じシステムで行い、防空戦闘を効率化したわけです。
以上の開発経緯をふまえると、本来は空母などを守る「艦隊防空艦」であって、弾道ミサイルは想定外でした。
それゆえ、海上自衛隊も艦隊防空能力を強化すべく、主に対ソ連用として「こんごう型」を導入しました。ところが、ソ連は就役時には崩壊しており、いきなり存在意義が問われることになります。
その後、北朝鮮のミサイル問題が浮かび上がり、日本のイージス艦はミサイル防衛という新たな役割を帯び、現在の活動状況にいたりました。
レーダーとイルミネーター
さて、イージス艦は他と比べて高い防空能力を持ち、その差は歴然としていますが、それを実現したのが「スパイ・レーダー（SPY Radar）」です。これは艦橋部分にある八角形のレーダーになり、「フェイズド・アレイ・レーダー」としても知られています。
実際には小さなアンテナが多く集まり、この集合体から超強力な電波を放つ仕組みです。その強さはすさまじく、作動中に人間が近くで立てば、皮膚を火傷してしまいます。
このレーダーは半径500km以上の捜索範囲を誇り、四方に「固定配置」したところ、全周360度を常に警戒できるようになりました。
従来型は回転するタイプが多く、回転中はわずかながらも「空白」が生じてしまいます。一方、固定式の場合は回転しなくて済み、基本的には空白が生まれません。
ミサイルが高速で迫りくる以上、わずかな空白が迎撃時に与える影響は大きく、イージス艦が防空に強い理由のひとつです。
ちなみに、ミサイル迎撃には「イルミネーター」という誘導装置が欠かせず、対空ミサイルを目標まで誘導する役割を担います。これはパラボラ・アンテナのような見た目を持ち、イージス艦の後部付近にありますが、イルミネーターの数で同時交戦できる数が変わります。
さて、海自のイージス艦は通常防空のみならず、弾道ミサイルの迎撃能力も備えているため、理論上は「SM-3ミサイル」で超高速の弾道弾を撃ち落せます。ただし、迎撃試験では何度か証明済みとはいえ、予告なしで撃つ実戦で通用するかは分かりません。
それでも、高性能な軍艦であるのは変わらず、日本の防衛に欠かせない兵器ですが、その代わり「コスト」は結構かかります。いちばん古い「こんごう型」でさえ、1隻あたりの建造費は約1,200億円でした。
その後、能力が高まるにつれて値段も上がり、最新の「まや型」では1,720億円まで高騰しました。これは汎用護衛艦2隻分に等しく、決して多くの国が持てる船ではなりません。
また、最高機密の塊であることから、整備部分でアメリカに依頼する点が多く、年間維持費は100億円以上といわれています。
コメント