貴重な「核兵器運用能力」
海軍力の象徴である「空母」のなかで、とりわけ強大なのが圧倒的な発電量と航続距離を誇る原子力空母ですが、この分野はアメリカが独占しているイメージが強く、そのほかはイギリスのクイーン・エリザベス級のように通常動力型が多いです。
ところが、フランスも「シャルル・ド・ゴール」というアメリカ以外で唯一の原子力空母を持ち、同国の打撃力を支える貴重な存在になっています。
- 基本性能:空母シャルル・ド・ゴール
排水量 | 37,680t (基準) 42,000t (満載) |
全 長 | 261.5m |
全 幅 | 64.4m |
乗 員 | 1,942名 (航空要員542名) |
速 力 | 27ノット (時速50km) |
兵 装 | ・20mm機関砲×8 ・垂直発射装置×32 ・6連装対空ミサイル発射機×2 |
艦載機 | ・戦闘機×30機 ・早期警戒機×2〜3機 ・輸送ヘリ×2機 ・救難ヘリ×2機 |
その他 | ・輸送能力 上陸部隊800人 ・医療設備 手術室×2 病床×50(最大) |
価 格 | 約3,500億円 |
第二次世界大戦以降、フランスは長らく2隻の「クレマンソー級」を使っていたものの、老朽化にともなう退役を見越して、新たに2隻の原子力空母を建造しました。
しかし、冷戦後の軍縮機運で予算の都合がつかず、最終的には「シャルル・ド・ゴール」のみが2001年に就役しました。
「シャルル・ド・ゴール」はフランス初の原子力空母にあたり、アメリカ空母と同じく蒸気カタパルトを装備しているため、スキージャンプ方式よりも優れた航空機運用能力を獲得しました。
ラファール戦闘機を中心に40機前後の艦載機を持ち、早期警戒機やヘリを組み合わせながら、コンパクトで強い航空打撃力となっています。
この戦闘航空団はNATO軍の一翼を担い、アフガニスタン戦争やイスラム国への空爆にも投入されてきました。

純粋な航空戦力ではアメリカ空母に劣るとはいえ、対空火器だけで8つ、ミサイルの垂直発射装置(VLS)は32セルという規模を誇り、空母にしては高い防御力を持っています。
また、フランスにとって最も重要なのが、核兵器の運用能力がある点です。
空母のラファール戦闘機には、射程600km超の核巡航ミサイルが搭載できますが、世界中の現役空母のうち、こうした核運用能力があるのは「シャルル・ド・ゴール」だけになります。
象徴だが、ワンオペ体制
第二次世界大戦における英雄の名を持ち、フランスの核戦略も支える一方、大国としての力を具現化したツールでもあります。
フランスの軍事的プレゼンスを示すべく、砲艦外交に派遣されるケースも多く、地中海ではその動きが顕著です。
また、ヨーロッパというイメージとは裏腹に、フランスはインド洋、太平洋にも海外領土を持ち、排他的経済水域でみれば、じつは世界トップクラスにあたります。
加えて、多くの植民地を持っていたため、いまでもアフリカ諸国に対して旧宗主国として関与せざるをえません。
これら海外領土や権益を守るための海軍力はもちろん、プレゼンスを示して抑止したり、旧宗主国として脆弱な現地政府を支援する場合、空母の戦力投射能力が役立つわけです。

一方、いろんな役割を担うにもかかわらず、1隻のみで終わったがゆえに「ワンオペ運用」を余儀なくされてきました。
通常は2〜3隻によるローテーションが好ましいなか、このワンオペ体制にともない、整備補給中は空母が不在という事態に陥ります。
苦肉の策として艦載機の訓練をアメリカの空母で行ったりしますが、2隻目が建造されない限り、この問題は抜本的には解決できません。
さはさりながら、いまのフランスに2隻目を建造・運用する余裕はなく、「シャルル・ド・ゴール」は退役する2030年代後半までワンオペを貫くつもりです。
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