迷走して生まれた歩兵戦闘車
歩兵を戦場まで運び、火力支援も行う歩兵戦闘車は各国陸軍にとってもはや必須アイテムで、ドイツのマルダー歩兵戦闘車やロシアのBMPシリーズが有名ですが、世界最強のアメリカも当然ながら一流の歩兵戦闘車を運用しています。
それが40年以上も愛用されている「M2ブラッドレー歩兵戦闘車」で、もともとこの分野に出遅れていたアメリカが一気に逆転した傑作です。
- 基本性能:M2ブラッドレー歩兵戦闘車
重 量 | 約33t |
全 長 | 6.55m |
全 幅 | 3.3m |
全 高 | 2.98m |
重 量 | 33t |
乗 員 | 操縦:3名 同乗:7名 |
速 度 | 時速56km |
行動距離 | 約400km |
兵 装 | 25mm機関砲×1 対戦車ミサイル×2 7.62mm機関銃×1 |
価 格 | 1両あたり約4億円 |
歩兵戦闘車は第二次世界大戦で激しい地上戦を繰り広げた独ソ両国が先行した分野で、戦後もソ連に遅れをとっていたアメリカが焦るという基本構図でした。
このようにソ連の動向を気にしつつ、歩兵戦闘車の開発が思うように進まないアメリカでしたが、ソ連が重武装の「BMP-1」を登場させると、その焦りは頂点に達します。
こうした事態を受けたアメリカは一気に差を埋める計画を立てるわけですが、これが結果的に「M2ブラッドレー」の誕生につながりました。
しかし、1968年に始まった開発計画は難航しつづけ、数度の紆余曲折と計画変更を余儀なくされました。
これは米陸軍がさまざまな要求を盛り込んだことで、想定以上の性能を追求せざるを得なくなったのが主な原因で、理想に基づいて「あれもこれも」と要望を詰め込んだ典型例といえるでしょう。
ちなみに、このあたりの経緯は映画「ペンタゴン・ウォーズ」でおもしろおかしく描かれているのでオススメです。
さて、陸軍の要求に応えるべく長期にわたる開発を行った結果、新しい歩兵戦闘車はかなり重武装ながら、同じタイミングで登場した主力戦車「M1エイブラムス」にも随伴できる軽快さを兼ね備えました。
M2ブラッドレーはそれまで他国にとっていた遅れを挽回したほか、日本の陸上自衛隊にも大きな影響を与えて、89式装甲戦闘車の開発につながりました。
主武装の25mm機関砲は毎分200発の発射速度と約2.5kmの有効射程を誇り、ほかにも射程3.5km以上の対戦車ミサイルを予備弾も含めて5発搭載しているため、火力と装甲で勝る戦車が現れても対処可能です。
戦闘に積極参加できるほどの火力を持つM2ブラッドレーですが、本来の役割である兵員輸送については最大6名(最新型は7名)を運ベるのみならず、輸送機に搭載して世界各地に展開できる空輸性も備えています。
しかし、重武装と優れた機動性の代償として、車内に格納された大量の弾薬は被弾時の誘爆リスクが高く、アルミニウム合金を使った初期装甲は極めて脆弱という問題点を抱えていました。
この防御力問題は実弾を使った耐久試験でも改めて露呈したため、装甲強化などの対策が講じられて現在は克服しています。
これは実戦でも証明されていて、湾岸戦争とイラク戦争では投入数に比べて損失は少なく、湾岸戦争ではM1エイブラムス戦車よりも多くの敵車両を撃破したほどです。
また、ロシア=ウクライナ戦争ではウクライナに供与された180両のうち、ロシア軍の地雷や砲撃、攻撃ヘリによって数十両を損失したものの、乗員は生還したケースが多く、実戦における高い生存性を示しました。
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