203mmカノン砲の威力
ロシア=ウクライナ戦争で熾烈な砲兵戦が展開されるなか、純粋な火力でひときわ目立つのが「2s7ピオン自走カノン砲」になります。
これは1960年代に旧ソ連で開発されたもので、現在もロシアとウクライナの双方が使っている重砲です。
- 基本性能:2s7ピオン自走砲
重 量 | 46.5t |
全 長 | 10.5m |
全 幅 | 3.38m |
全 高 | 3m |
要 員 | 14名 |
速 度 | 時速50km |
行動範囲 | 約650km |
兵 装 | 52口径 203mmカノン砲×1 |
射 程 | 最大55.5km |
発射速度 | 毎分1.5発 |
価 格 | 不明 |
ピオンは203mmという重巡洋艦並みの大口径もさることながら、砲身の長さから榴弾砲ではなく「カノン砲」に分類されています。
野戦で敵の火砲を射程圏外から攻撃したあと、気づかれる前に移動する運用構想だったため、その射程距離は通常弾でさえ37.5km、ロケット推進弾は55.5km先まで届くほどです。
しかも、NATO陣営との全面戦争に向けて、クラスター弾や化学砲弾、核砲弾まで撃てるありさまでした。
その代わり、砲身寿命は約450発と短く、100kg超えの砲弾は4発しか車内に載せられません。ゆえに、追加弾薬を運ぶトラックが同行せねばならず、操作要員の半数も別車両に乗ります。
砲自体は左右15度ずつの旋回角度、最大60度の仰角を持ち、アナログ照準器を使って射撃する仕組みです。手慣れたチームであれば、最短6分で射撃準備を行い、5分で撤退を完了させられます。
最大の発射速度は毎分1.5発とされているものの、通常は追加弾薬も含めて8〜12発分しか持ち合わせていません。1発あたりの破壊力があまりに大きく、大量に撃ち込む必要はないという考えです。
ちなみに、203mm砲から放たれる爆風や爆音は、周りの人間に被害を与えるため、発射5秒前にはブザーで操作要員に退避勧告を行います。戦争映画で戦艦大和の主砲射撃時に似たシーンがありますが、それだけピオン自走砲の威力がすさまじいわけです。
首都キーウを救った?
ピオン自走砲はソ連のアフガン侵攻で初めて使われて以来、いまも旧ソ連諸国で引き続き運用されています。最近ではグルジア紛争、ナゴルノ=カラバフ戦争、そしてロシア=ウクライナ戦争に投入されており、老兵ながらその大火力が重宝されている形です。
ロシア=ウクライナ戦争では両軍とも使っていますが、とりわけウクライナ軍のピオンは首都・キーウに迫るロシア軍を撃退するのに大きく貢献しました。
戦争序盤での首都制圧を狙ったロシアは、自慢の戦車部隊などを郊外まで進めたものの、ピオン自走砲を装備したウクライナ軍の砲兵部隊に集中砲火を浴びせられました。
つまり、ウクライナ側からすれば、ピオンは首都キーウを救った英雄的兵器であり、勝利の象徴でもあるわけです。
そんなピオン自走砲は両軍とも損失を出しつつ、現在も戦場で撃ち合っています。
ウクライナは軍事支援で新型火砲を多く手に入れたとはいえ、ピオンの大火力を使わないのはありえず、砲弾がある限りは運用しつづけるつもりです。
弾薬の備蓄量は不明ながらも、アメリカで退役したM110A自走砲の203mm弾を融通してもらっているほか、155mm榴弾砲と比べて射撃頻度が少なく、もうしばらくは維持できそうです。
一方、ロシア側もソ連時代の予備火砲と備蓄を倉庫から引っ張ってきたり、弾薬増産に努めています。
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