空輸できる四輪バギー
陸上自衛隊といえば、戦車や装甲車のような大型の重装備が多いなか、最近は小型・軽量がコンセプトの新型車両も登場しています。
そのひとつが「汎用軽機動車」と呼ばれるものですが、これはカワサキ・モーターズが作った多目的自動車「ミュール」のいわゆる自衛隊版です。
- 基本性能:汎用軽機動車
重 量 | 0.5t |
全 長 | 3.45m |
全 幅 | 1.61m |
全 高 | 1.95m |
乗 員 | 5名(前3、後ろ2) |
速 度 | 時速72km |
価 格 | 約1,300万円 |
ミュールは「Multi-Use Light Equipment(多目的軽装備)」という意味を持ち、海外の農場や牧場における移動・運搬作業に使うべく、カワサキが開発した小型の四輪バギーです。
見た目はほぼゴルフカートながらも、機動力に優れているのみならず、全地形対応型として不整地も走れるのが強みでした。
これに目をつけたのが日本版海兵隊の水陸機動団であり、V-22オスプレイに載せられる軽車両として購入しました。水陸機動団は離島防衛には欠かせず、この部隊をいち早く運ぶのがオスプレイの仕事です。
しかしながら、オスプレイは機内が狭く、高機動車などの装備品が入りません。これらはCH-47Jのような大型ヘリで輸送せねばならず、オスプレイで先に運べるのは隊員のみという状況でした。
そこで、オスプレイにも収容可能なミュールを導入して、「汎用軽機動車」として使うことにしたわけです。
小さい力持ちの「ロバ」
新しい汎用軽機動車は5人まで乗れるほか、後部座席をたためば最大450kgもの荷物を積載可能です。
しかも、そのかわいい見た目に反して、約900kgの車両を引っ張れるほどの力持ちでもあります。ミュール(MULE)という名前自体がロバの英語名にかけており、小さいながらも大きな荷物を引っ張る働き者にふさわしいネーミングです。
そんな自衛隊版のロバは、一般向けの市販品と比べて以下の点で異なります。
- 陸自車両としてOD色(オリーブドライ)に塗装
- オスプレイ搭載用の固定フックを追加
- ウィンカーやミラーなどを追加(道路運送車両法に基づく)
特別に公道を走れる
もともとミュールは農場のような私有地で使い、公道の走行は想定していません。そのままでは公道は走れないことから、法令基準を満たすために改造を行い、国土交通省の認可を得なければなりません。
したがって、汎用軽機動車も自衛隊が必要とする範囲に限って、公道での走行が許可されています。
特別に公道を走れるわけですが、陸自では2018年に最初の6両を導入して、いろいろ試験したあと、現在は正式採用に向けて最終調整中です。
能登半島地震でも空輸展開(出典:陸上自衛隊)
まだ数が少なく、ほとんど見かける機会はないものの、2024年の正月に起きた能登半島地震では持ち前の身軽さを用いて活躍しました。
道路が寸断されたり、狭い山間部の迂回路しかないなか、汎用軽機動車は通常の自衛隊車両では難しい箇所を進み、孤立した地域に物資を届けたり、助けを待つ人々を救い出しました。
さっそくコンパクト、悪路に強い長所を発揮しましたが、被災地の活躍ぶりも全体評価を引き上げています。
ただし、防御力は皆無。
しかしながら、その外見から分かるとおり、汎用軽機動車は防御力がありません。はっきり言えば、少し丈夫なゴルフカートでしかなく、爆風や至近弾ではひっくり返り、乗員も外部に身をさらしている状態です。
敵の攻撃には無防備なうえ、気候にも影響されやすく、生存性と快適性は期待できません。
米軍も似た車両を使用(出典:アメリカ軍)
これは何も汎用軽機動車に限らず、諸外国が使う同種の車両にも共通します。
アメリカも似た車両を使い、ロシアも強化ゴルフカートをウクライナに投入しました。ただ、ウクライナでは防御力の弱さがひびき、地雷や砲弾で乗員ごと吹き飛び、ハチの巣にさせるなど、多くが破壊されてきました。
つまるところ、使う場所やタイミング次第ですが、これを間違えれば、乗員ごと失う可能性が高いです。
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