3,500トン級を新造?自衛隊の海洋観測艦が果たす役割

自衛隊の海洋観測艦 自衛隊
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対潜戦の本質について

地球の7割を占める海は未知な点が多く、宇宙と並ぶフロンティアといわれてきました。その地形や生態系を調べる海洋調査が進むなか、これらは資源開発のみならず、軍事目的も含まれています。

それは潜水艦の戦いで優位性を確保すべく、各海域の特性を把握することです。たとえば、対潜戦は海底地形や潮流などに影響されやすく、特徴を知っている側が有利になります。

そして、これら特性を把握するには「海洋観測艦」が欠かせません。

特に海上自衛隊は「対潜の鬼」を目指す関係から、海洋観測艦を長らく運用してきた歴史を持ち、その姿勢はいまも変わりません。

対潜戦では前述の地形・潮流だけでなく、海水温、塩分濃度、地磁気なども加わり、これら要素が探知能力に影響を与えます。潜水艦を見つけるには「音(音波)」が欠かせず、その伝わり方は海中の状況次第で変わってくるわけです。

また、機雷戦も海流や地磁気に左右されやすく、適切に処分・敷設するには海中環境を把握せねばなりません。それゆえ、対潜戦と機雷戦のどちらにおいても、海洋観測艦のもたらす情報が頼りといえます。

それぞれ違う3隻

いまのところ、海自は「わかさ」「にちなん」「しょうなん」の3隻を運用しており、中国が沖ノ鳥島や小笠原諸島の海域にも出没するなか、これら海洋観測艦の価値がさらに高まっています。

  • 基本性能:海洋観測艦「わかさ」「にちなん」「しょうなん」
  わかさ にちなん しょうなん
排水量 2,050t 3,300t 2,950t
全 長 97m 111m 103m
全 幅 15m 17m 16.4m
乗 員 95名 80名 80名
速 力 最大15ノット
(時速28km)
最大20ノット
(時速37km)
最大16ノット
(時速37km)
装 備 海洋観測装置
音響観測装置
11m作業艇×1
無人潜水艇×1
海洋観測装置
音響観測装置
11m作業艇×1
無人潜水艇×1
海洋観測装置
音響観測装置
11m作業艇×1
就 役 1986年 1999年 2010年
建造費 約300億円 約328億円 約118億円

海洋観測艦は水温、潮流、塩分濃度、磁気などの観測機器を持ち、集めたデータを分析・記録するための専用装置も整備されています。

あらゆる環境に対応すべく、浅い海では小型作業艇を、深海観測には約400mまで潜れる無人潜水艇を使い、後者は海底掘削や観測機器の補修作業も可能です。

最新の海洋観測艦「しょうなん」(出典:海上自衛隊)

ここで各艦を見ていくと、まず最古参の「わかさ」は退役寸前だったもかかわらず、2015年に10年の延命工事を行い、その引退が延ばされました。これは予算事情もさることながら、海洋進出を強める中国に対処するためです。

1999年に登場した「にちなん」は音響測定への悪影響を減らすべく、艦全体を安定させる装置を盛り込んだほか、海洋観測艦として初めて「バルバス・バウ(水中抵抗力を軽減)」を採用しました。

一方、最新型の「しょうなん」はコスト削減に取り組み、海洋観測と解析用の機材こそあれども、無人潜水艇の搭載は見送られました。費用対効果をふまえた結果とはいえ、技術的進歩のおかげもあってか、能力的には他の2隻と比べて劣りません。

新規建造で能力維持へ

さて、「わかさ」は延命改修されたものの、近い将来には退役せざるをえず、その後継として「3,500トン級」を約283億円かけて新造予定です。

海自は深刻な人手不足に悩んでいるうえ、護衛艦や潜水艦とは異なり、海洋観測は民間でもまかなえる部分はあります。しかし、対潜戦用の情報収集・分析は一般企業には難しく、勝敗を分けるような機密情報を民間に任せるわけにはいきません。

加えて、ローテーションによる稼働率を考えれば、現状の3隻体制は維持せねばならず、やはり新しい海洋観測艦が必要になります。

また、長年の蓄積データがあるとはいえ、これらは火山活動や海流の動きで変わリ、定期的に調査しなければ、せっかくの地の利が失われてしまいます。結局のところ、日頃から地道に海洋観測を行い、他国よりも詳しく把握しておかねばなりません。

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