意外と対中強硬路線?
さて、岸田政権に限らず、日本は対中国では「弱腰」と批判されがちです。
しかし、実際に岸田政権の政策をふりかえると、中国として極めて「嫌な相手」だったといえます。
防衛力整備と対中包囲網
以前の記事でも書きましたが、岸田政権下では防衛力整備が比べものにならないほど進み、それは安倍政権ですら実現できなかったものばかりです。
たとえば、防衛関係費は8〜9兆円規模になり、2027年にはGDP比で2%になります。この防衛費増額により、自衛隊は長距離ミサイルを導入したり、新たに長射程弾道ミサイルを独自開発したほか、弾薬の増産や生活環境の改善ができました。
中国目線でみれば、日本はわずか3年ほどで軍事費の倍増が決まり、中国本土も射程に収める反撃能力を手に入れたわけです。
一方、外国関連でいえば、アメリカとの同盟強化はもちろん、オーストラリアとイギリス、フィリピンとの準同盟を推し進めました。しかも、武器輸出規制の緩和でフィリピン支援も可能になり、南シナ海で中国が対峙するフィリピンの巡視船は日本が建造したものです。
関係改善で韓国を中国から引きはがし、クワッド会談を通してインドを少なくとも中国側には行かないようにしています。
さらに、ことあるごとに警鐘を鳴らした結果、欧州諸国もようやく中国の危険性に気づき、アジア方面に航空機や軍艦を派遣するようになりました。
いまや日本は欧州各国が送る艦隊の終着地点になっており、ここでの補給・整備、共同訓練が当たり前になりつつあります。
日米豪比のみならず、欧州勢までがやってくるうえ、ほぼ毎回のように台湾海峡を通るので、中国からすれば発狂ものでしょう。
日豪仏独伊の共同訓練(出典:海上自衛隊)
ここまで列挙した事実だけでも、全く「媚中」「親中」でなかったのがわかりますが、極めつけは台湾海峡への海自護衛艦の派遣です。
あくまで領空侵犯や領海侵入への対抗措置ですが、安倍政権ですら配慮してやらなかったことを、岸田政権は平気でやってのけました。しかも、退任直前に行ったため、次の総理がこれに劣る措置をとれば、相対的に弱腰になってしまいます。
戦後初の強硬措置を辞める直前に行い、次の総理の対中ハードルを引き上げたのです。ここだけに限れば、対中融和どころか、対中強硬路線の政権でした。
愛国よりもリアリズムを
もちろん、同時期に起きた日本人男児の殺害事件では、その弱腰姿勢を指摘する意見がありました。ところが、外交筋を通して中国に邦人の安全確保、反日キャンペーンの取り締まりを要求しています。
悲しい事件には違いありませんが、激情に任せて外交を行えば、戦前と同じ轍をふみかねません。あの当時も、日本人居留民や軍人が殺害されたため、国民感情が湧きあがり、政府も「暴支膺懲(横暴な中国に鉄槌を)」というスローガンの下、日中戦争という泥沼に突き進みました。
先ほども述べたように、外交はしたたかさが重要です。
もし、怒りに任せて対抗・報復のみに傾けば、相手につけ入るスキを与えたり、同情を誘われて日本の立場を悪くしかねません。ガザ侵攻で孤立するイスラエルをみれば、その悪手ぶりが分かるでしょう。
とりわけ、中国は現在の日本の行為を過去に絡めやすく、歴史カードを使われたら面倒なことになります。なぜならば、歴史問題では日本は「悪」にならざるをえず、アメリカと中国は同じ陣営にいたからです。
日本側の事情や解釈はどうあれ、大日本帝国は「あのヒトラーと手を組んだ悪者」というのが世界の共通認識、歴史観になります。これに対して、日本人として思うところはあれども、勝者が歴史を作る以上、これは仕方ありません。
だからこそ、最近の首相は靖国参拝を控えてきました。
日本のために戦死した英霊を弔う。これは心情的に当たり前の行為です。
ただ、外交的にはそれがもたらす悪影響の方が大きく、中国に歴史問題でつけ入るスキを与えてしまいます。せっかく自由と民主主義の旗を仰ぎ、日本は変わったとアピールしてきたのに、自ら歴史カードを使わせるチャンスを作り、結果的に国益を損なってきました。
何度も言いますが、歴史問題になれば、日本に勝ち目はありません。
「正義の戦争」を戦ったアメリカと中国は同じ陣営に立ち、その正当性に疑問を投げつけるのは戦後の国際秩序・体制を否定するものだから。その国際秩序を日本が守り、中国を挑戦者として描くべきにもかかわらず。
果たして、いまの日本の立場を悪くしてまで、首相が公式参拝すべきなのか?はたまた、英霊たちがそうした状況を望むだろうか?
彼らが守ってきた日本を、私たちが不利な状況に追い込んではななりません。
このような視点に基づけば、日本は「現在」に集中しながら、あまり過去に結びつけられないようにせねばなりません。
戦後80年間にわたり、平和主義を貫いてきた実績、そして現在は自由主義・民主主義を守り、逆に中国がそれに挑戦している構図を作り出す。これが基本路線になります。
こうした認識に立てば、岸田外交は保守層には物足りない感があるとはいえ、中国につけ入るスキを与えず、あくまで現実路線に基づきながら、確実な対中包囲網、防衛力整備を進めたと評価できます。
当初は「ハト派」と言われていた岸田文雄ですが、フタを開けてみれば、穏やかな表情は変えず、裏ではやるべきことを淡々と実施していました ー 少なくとも外交・安全保障に関しては。
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