潜水艦という兵器のよさ
島国・日本にとって「海の守り=国防」というのは昔から変わらず、海上自衛隊も発足してから戦力拡充と能力向上を図ってきました。
特に第二次世界大戦で苦しめられた「対潜戦」を重視したところ、その副産物として世界有数の性能を持つ通常動力型潜水艦を獲得しました。
しかし、急拡大する中国海軍を前にして、海自は戦力的劣勢に立たされている状況です。そこで、日本が改めて目をつけたのが潜水艦という兵器です。
その隠密性から「海の忍者」とも称される潜水艦は、どこにいるのか分からず、存在するだけで敵に不安を与えつづけます。しかも、奇襲攻撃を得意とすることから、常に対潜哨戒用の戦力を割かねばならず、行動も大きく制限されます。
一方、神出鬼没の潜水艦は数的劣勢に悩む側にとっては効果的な武器で、同じ予算を使うならば護衛艦よりも潜水艦を建造した方が高い費用対効果を望めます。
対中国に向けた戦力強化
対中国の切り札としての潜水艦に着目した海自は、2010年に定数をそれまでの16隻から22隻に増やす方針を打ち出しました。ただし、この数字には2隻の練習潜水艦が含まれておらず、実態としては「22隻+2隻体制」が正しいです。
ちなみに、日本は建造技術を維持するために毎年1隻ずつ潜水艦を作ってきた歴史がありますが、これは同じだけの数を毎年退役させていたことを意味します。
まだ余裕で使える潜水艦を18年ほどで引退させていたわけですが、こうした早期退役は世界的には珍しく、かなりもったいない運用方針でした。
増勢によってこの期間は24年間まで延びたとはいえ、普通は30年ぐらい使いつづける点を考えると、まだまだ贅沢な使い方でしょう。
停泊中の海自潜水艦(筆者撮影)
さて、2022年の「たいげい型」潜水艦の就役をもって、ようやく22隻体制が完成しました。
では、この完成した22隻体制によって何が変わるのか?
まず、ローテーションを考慮しても常時展開できる戦力は6〜7隻になり、冷戦期から重視してきた宗谷、津軽、対馬の三海峡に加えて、中国海軍の活動が盛んな南西諸島方面にも目を光らせられます。
そして、22隻のうち、そのほとんどが潜航期間を大きく伸ばした「そうりゅう型」以降の潜水艦なので、潜水艦隊の能力そのものが底上げされました。
こうした進化のおかげで、南シナ海にも初めて潜水艦を公式進出させるなど、海自潜水艦の活動領域がこれまでの日本周辺から大きく広がりました。
これは日米のインド太平洋戦略を下支えするもので、今後は南シナ海のみならず、インド洋や南太平洋方面でも海自潜水艦が活動する日が来るかもしれません。
このように隻数の増加による即応戦力の強化だけでなく、活動範囲も広げることで中国側が想定していなかった海域にも海自潜水艦がいるかもしれない心理的圧力を加えられます。
予期しない場所に思わぬ相手がいるのは計画を狂わせるため、相手への「嫌がらせ」としては十分すぎます。
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