役割は違えど、連携して戦う
現代陸軍の必須装備として戦車や装甲車があげられますが、後者には「装甲兵員装甲車」「歩兵戦闘車」をはじめとするさまざまな種類が存在します。
戦車はなんとなくイメージが付くものの、装甲車の種類はややこしく、おおざっぱにまとめると以下のようになります。
戦車 | 装甲兵員輸送車 | 歩兵戦闘車 | |
役 割 | 敵戦車の撃破 敵陣の突破 |
歩兵の運搬 | 歩兵の運搬 火力支援 |
脚回り | キャタピラ式 | キャタピラ式 タイヤ式 |
キャタピラ式 |
火 力 | 極めて強い | 弱い | 強い |
防御力 | 高い | 最低限レベル | 中レベル |
機動力 | 不整地に強い | キャタピラ式:不整地◎ タイヤ式:路上◎ |
不整地に強い |
コスト | 高い | キャタピラ式:高い タイヤ式:比較的低い |
高い |
上記からもわかるように、どの車両もそれぞれ長所・短所があり、戦場では互いに補完し合いながら戦います。
また、これ以外にも、陸上自衛隊の「軽装甲機動車」や水陸両用戦向けの「AAV-7」といった種類が多く存在しますが、今回は簡略化のために割愛します。
では、続いて経緯や具体的な役割を含めて解説していきます。
打撃力・突破力の戦車
第一次世界大戦で登場した「戦車」という兵器は、強力な打撃力と優れた機動力で敵の防衛線を突破したり、敵の戦車を撃破するのが役割です。
現代陸軍でも「戦車に対しては戦車で対抗する」というのが基本スタンスで、こちらが戦車を持っているだけで相手も同等戦力を用意せねばならず、侵攻のハードルを高められます。
しかし、地上戦で強さを誇る戦車も、航空機からの攻撃に弱かったり、視界が狭くて周辺警戒が難しい弱点を抱えています。純粋な「力の差」では戦車は歩兵を圧倒しますが、こうした視界の盲点を突かれると脆いわけです。
圧倒的火力を誇るが、単独行動は意外に危険(出典:陸上自衛隊)
そのため、単独行動は対戦車火器の餌食になりやすく、死角から狙ってくる敵兵の掃討には友軍歩兵が欠かせません。
そこで問題となるのが「この友軍歩兵を戦車にどう随伴させるか」という点。
もちろん運搬方法は色々あって、トラックの荷台や戦車そのものに乗せたり、余裕がない場合は民間自動車を使ったりします。しかし、戦場ではやはり装甲付きの車両で歩兵を守るのが望ましく、こうした事情から「装甲兵員輸送車」というのが登場しました。
これは戦車と同じキャタピラ式の輸送車で、乗員保護用の装甲と戦車に付いていけるだけの機動力を持ちます。元来、キャタピラ式というのは舗装されていない道路や土地(不整地)を走るには適しており、野戦で戦車とともに行動するには必要です。
一方、キャタピラ式車両は調達コストと整備維持費の面では決して有利といえず、冷戦終結と道路網の急速整備にともなって、舗装道路で機動力を発揮しやすく、調達・運用コストも低いタイヤ式の「装輪装甲車」が注目されます。
こうした流れを受けて、兵員輸送車も陸自が使う「96式装輪装甲車」のようなタイヤ式のものが登場し、機動性重視の時代を予感させました。
ただし、キャタピラ式にせよ、装輪式にせよ、装甲兵員輸送車というのはあくまで「戦場まで運んで終わり」という車両なので、装甲は最低限レベルにとどめられ、武装も機関銃ぐらいしかありません。
運び、共に戦う歩兵戦闘車
貧弱な火力しか持たない装甲兵員輸送車は、戦場で本格的戦闘に巻き込まれた際には狩られやすく、もっと戦える装甲車が追求されるようになります。
こうして開発されたのが「歩兵戦闘車」というもので、その先駆けとして登場したソ連の「BMP-1」は、73mm砲と対戦車ミサイルを搭載して西側諸国に衝撃を与えました。
その後、ドイツが開発した「マルダー」やアメリカの「M2ブラッドレー」でも機関砲と対戦車ミサイルを搭載して火力強化を実現しました。このように敵戦車とも渡り合える火力を手に入れた歩兵戦闘車は、従来のように運ぶだけではなく、歩兵の火力支援という任務も与えられたのです。
実戦でも戦車を撃破したM2ブラッドレー(出典:アメリカ軍)
また、本格的交戦を想定したことから、防御力も高められており、被弾しても乗員だけは守る設計になっています。
とはいえ、防御力については運用思想の違いもあってか、西側と旧東側ではかなりの差がみられ、ロシア=ウクライナ戦争ではソ連製の「BMPシリーズ」が走る棺桶と揶揄された反面、西側諸国のものは高い生存性を発揮しました。
いずれにせよ、火力・防御力ともに強化された歩兵戦闘車は「準戦車」ともいえる立ち位置となり、現代陸軍にとっては高コストながらも必要な装備となりました。
装甲兵員装甲車はまだ使える
さて、歩兵戦闘車の登場は画期的だったものの、これによって装甲兵員輸送車がお役御免になったわけではありません。
むしろ、冷戦後は軍縮の機運もあって、高コストな歩兵戦闘車よりも低コスト・高機動な装輪装甲兵員輸送車が好まれる傾向がありました。
また、戦車に随伴しながら、純粋に歩兵を運ぶだけならば、装甲兵員輸送車でも十分に務まります。
したがって、古い装甲兵員輸送車でもまだ活用の余地はあり、ロシア=ウクライナ戦争では旧式の「M113装甲兵員輸送車」が投入されました。
こうした装甲兵員輸送車は、防御力ではトラックや民間の改造車両より断然優れているため、旧式でも重宝されているのが実情です。
「ないよりはマシ」という扱いですが、コスト的に全てを歩兵戦闘車で置き換えるわけにはいかず、露払いしながら味方兵士を運ぶ役割は果たせるため、今後も存在し続けるでしょう。
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