三菱重工の「MAV」
陸上自衛隊の96式装輪装甲車の後継としてフィンランド製のパトリアAMVが選ばれて話題になりましたが、この次期装輪装甲車の座を巡って最後まで争っていたのが三菱重工業が提案した「機動装甲車(仮)」でした。
まさに「国産開発vs海外輸入」の一騎討ちに敗れた形ですが、敗因は一体何だったのでしょうか?
⚪︎基本性能:機動装甲車(仮)
重 量 | 18t |
全 長 | 8m |
全 幅 | 2.98m |
全 高 | 2.2m |
乗 員 | 2名+同乗9名 |
速 度 | 時速100km |
兵 装 | 機関銃、擲弾銃など |
価 格 | 不明 |
機動装甲車(仮)は三菱重工が開発した装輪装甲車で、別名の「MAV(Mobile Armored Vehicle)」としても知られています。
96式装輪装甲車よりもひと回り大きい車体には、同じ三菱重工が開発した16式機動戦闘車の技術を流用しており、部品の約8割を共通化することで、コスト削減と整備・補給面での効率化を図りました。
もともと、96式装輪装甲車の後継には同車を担当した小松製作所の「装輪装甲車(改)」が予定されていたものの、防弾性能の不具合で取り消しになり、機動装甲車(仮)とフィンランドのパトリアAMVが候補として残りました。
その後、富士学校などの演習場で両者の比較試験が行われたところ、2022年末にパトリアAMVを自衛隊初のフィンランド産として採用しました。
総合評価で相手に及ばす
パトリアAMVが選ばれた理由は、機動装甲車(仮)に欠点があったというよりは、単純にパトリアの方が防御力を含む基本性能で上回り、価格面でも優れていたからです。
兵員輸送を目的とした装甲車である以上、機動装甲車(仮)も乗員を小銃や機関銃、砲弾の破片から守れるだけの防護力は持っていました。しかし、ライバルのパトリアAMVは大口径の30mm弾にも耐えられる正面装甲を持ち、地雷や即席爆弾(IED)にも強いため、最終的にはこちらに軍配が上がりました。
つまり、防御力を中心とした総合評価で敗れた形ですが、現場としては16式機動戦闘車と共通部品の多い機動装甲車(仮)の方が運用整備面では楽だったと思われます。
それでも、あえて前例のないフィンランド製を選んだのは、防御力が最重視されたのに加えて、海外輸入の方が確実に「数」を揃えられると見込んだからでしょう。
96式装輪装甲車の更新を急ぐ背景には、近づく有事に向けた焦燥感があるのは間違いなく、どれだけ早く調達できるかもかなり重視されたはずです。
機動装甲車(仮)の場合は試作車ができているとはいえ、新規開発にはトラブルが起きやすく、開発遅延やコスト超過のリスクをとるよりも、信頼と実績のある既製品を選びました。
残念な結果となった三菱重工の機動装甲車(仮)は、同じく不採用となった小松製作所の装輪装甲車(改)とともに「幻の国産装甲車」として記憶されることになります。
コメント
兵員輸送車型はこのパトリア車採用という事になった訳ですが、その他の歩兵戦闘車型等は来年度予算が計上されてる様ですね。こちらは三菱製が採用される事を切に望みます。