なぜロシアの軍事力・経済力は持ちこたえているのか?

破壊されたロシア戦車 外国
SERGEY BOBOK/AFP VIA GETTY IMAGES
この記事は約4分で読めます。

戦時経済体制への移行

最後はロシア経済についてみていきます。

多くの経済制裁を受けているにもかかわらず、ロシア経済はうまくやっている印象を受けます。

さはさりながら、その実態は戦時経済体制であって、国家の生産力をことごとく軍事分野にふり向けている異常事態です。たとえば、軍事関連費は対GDP比で7.5%まで上がり、国家予算の約1/3を占めるようになりました。

この戦時需要の急増にともない、軍需産業を中心に雇用改善が進み、それが民間企業での待遇改善につながりました。軍需産業に限れば、開戦前より約150万人も雇用が増えたため、社会全体で労働力の奪い合いになり、結果的に賃金が伸びました。

こうした賃金増に加えて、出稼ぎ兵士からの仕送りで潤い、遺族は多額の戦死弔意金をもらえます。戦争特需で好景気になっており、GDPもプラスに転じるなど、見かけ上の数値はよくなりました。

いまのところ、市民生活にも大きな混乱・影響は見られず、撤退した西側企業はロシア・中国企業が穴埋めしました。一部食品は価格が暴騰してますが、一般市民の生活はまだ余力がある状態です。

多くの食料や資源は自分たちで確保できるうえ、最先端分野を除く工業技術も代替可能です。制裁の抜け穴を利用すれば、iPhoneなどの西側製品も普通に手に入ります。

すなわち、経済制裁はロシア側の戦争遂行能力を奪うまではいたっていません。

モスクワの高層ビル群モスクワの高層ビル群(出典:Wikipedia)

では、ロシア経済は安泰なのか?それが、そうとは言えません。

ロシア政府は原油・天然ガスを輸出して外貨を稼ぎ、この収入で自国経済を回しています。西側の経済制裁を受けたとはいえ、ほかに買い手はいくらでもいるほか、原油価格の高騰も収入維持に貢献しました。

この原油価格が下がれば、貴重な外貨収入が減るのみならず、外貨で買い支えてきた自国通貨のルーブルが暴落しかねません。そうなれば、猛烈なインフレに陥りやすく、1990年代のような暗黒時代になる可能性があります。

言いかえれば、ロシア経済は資源価格に命運を委ねているわけです。

資源は決して無尽蔵ではなく、その採算性もふまえると、いまのロシアは貴重な資源を安くたたき売り、その収入を無用な戦争で浪費しています。

現在は資源価格でしのいでいますが、必ずやってくる「戦後」では新たな問題が浮上するでしょう。戦時経済体制が経済活動を戦争に最適化させる以上、それは本質的には歪な構造であって、そのツケは戦後に回ってきます。

いまは目先の経済をなんとか回すべく、劇薬によるブーストを得ているにすぎず、こんな力技はずっとは通用しません。戦争の行方がどうなろうとも、いずれは平時体制に戻す必要があるうえ、戦時経済体制からの脱却は決して簡単ではありません。

この事実を無視したまま突き進めば、悲惨な結末とともに限界を迎えるわけですが、プーチン政権にまともな出口戦略があるかは怪しいです。

歴史を勉強した者ならば、戦争による好景気が一過性の現象にすぎず、厳しい戦後が待っていることが分かるでしょう。

しかも、すでにロシア政府は年金積立金など、使ってはいけないお金にまで手を出しています。第二次世界大戦時の日本と同じく、社会保障費や国民の資産をいたずらに使い、戦地で散っている状態です。

前述の雇用状況・待遇改善も一時的な効果にすぎず、国家としては少子高齢化で悩んでいたなか、余計な戦争を始めて貴重な生産人口を失いました。

意外かもしれませんが、あれだけの土地を持っていながら、ロシアの人口は1.44億人ほどです。面積では日本の約45倍にもかかわらず、人口では約2,000万人しか変わりません。

これも、第二次世界大戦での異常すぎる損害、ソ連崩壊後の苦境による影響ですが、ウクライナ侵攻は人口ピラミッドの構成をさらに悪化させます。

若年層が人口再生産を担うにもかかわらず、ウクライナの戦地で大量に失い、どのような戦争結果になろうとも、国家としての衰退に拍車をかけました。

このように戦争で生産人口が減り、もともと資本力と産業技術力で劣るとなれば、そのハードルはさらに高くなります。

加えて、ロシアは撤退した西側企業の資本を勝手に接収するなど、今回の戦争で信用を失いました。悪さをしたあげく、借金をふみ倒した前科者に誰がお金を貸すでしょうか?

こうしたリスクをふまえると、戦後ロシアに再投資を呼び込むには、完全に生まれかわったと説得できない限りは難しいでしょう。おそらく中華企業の草刈り場になるのが関の山です。このあたりは完全に自分の撒いたタネなので、仕方ありませんが。

どうなる?ロシア=ウクライナ戦争の行方について
失敗した斬首作戦・短期制圧 2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、プーチン大統領がもくろんだ短期的な電撃戦ではなく、2年以上にわたる長...

コメント

タイトルとURLをコピーしました