爆弾をロケット化した兵器
西側諸国からの軍事支援により、ウクライナはロシア軍を相手に善戦していますが、長射程兵器は最後まで供与をしぶられました。
たとえば、ウクライナではHIMARSロケット砲が活躍しており、その戦果は身を見張るものがあります。ロシア軍の後方拠点を叩くべく、ウクライナは同兵器から発射する短距離弾道ミサイルの「ATACMS」を望んできました。
ところが、アメリカはロシアへの刺激を恐れて、まずは「GLSDB弾」を提供しました。
では、このGLSDB弾とは何なのか?
- 基本性能:GLSDB弾
重 量 | 270kg |
全 長 | 3.91m |
直 径 | 0.24m |
速 度 | 不明(滑空式なので遅め) |
射 程 | 約130〜150km |
価 格 | 1発あたり約500万円 |
これは「Ground Launched Small Diameter Bomb(地上発射型小直径爆弾)」の略称を持ち、地対地ミサイルに分類されがちとはいえ、その実態は爆弾をロケットで飛ばす兵器です。
「GBU-39」という精密誘導爆弾に対して、ロケットブースターを取りつけたもので、ボーイング社とサーブ社(スウェーデン)が共同開発しました。
通常爆弾をロケット化させたわけですが、その値段は500万円とミサイルより安く、お金がない国には魅力的なオプションです。
なぜ安いかといえば、クラスター爆弾が廃止になったとき、その余剰部品と通常爆弾を組み合わせたから。
しかも、通常爆弾の在庫は多く、もともとの生産コストも低いです。ちょっと手を加えただけで、長距離誘導兵器ができたというオチになります。
そして、HIMARSやMLRS多連装ロケット砲と同じロケットブースターを使い、互換性の確保とともに、外部からは見分けがつきません。
GLBDSは一定の高度まで加速後、翼を展開してグライダーのように滑空飛行します。このとき、GPSやレーザーで精密誘導されるため、誤差範囲は約1メートルにとどまりました。
また、全周360度への攻撃範囲を持ち、地理的制約を受けることなく、いろんな方向から攻撃できます。敵からすれば、どこから飛んでくるか分からず、安いわりには厄介な兵器です。
GLSDB弾の試験(出典:アメリカ空軍)
一方、滑空飛行はミサイルより遅く、敵に迎撃されやすいと指摘されています。
その威力についても、小型爆弾由来で比較的小さく、弾頭重量はATACMSの半分ほどです。それでも、厚さ1.8mのコンクリートを貫通したり、遅延作動などの起爆タイミングも選べるため、建物や陣地、掩蔽壕は破壊できます。
ウクライナでATACMSと併用
弾頭重量、射程距離はATACMSの半分とはいえ、安くて高性能なのは変わらず、ウクライナ軍の攻撃範囲を約50〜60kmは伸ばしました。
ただ、HIMARS向けに改良しているうちに、アメリカによるATACMS供与が決まり、むしろ先に到着しました。
しかしながら、ATACMSはあまり在庫に余裕がなく、その使用は戦略的価値の高い目標に限られます。それ以外の後方拠点はGLSDB弾で狙い、ATACMSとの「併用体制」になりました。
実際の戦果はさることながら、本命のATACMS供与を引き出した意味でも、GLSDBの役割は大きかったといえます。
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