連射能力に優れた北欧産
北欧のスウェーデンといえば、ロシアによるウクライナ侵略を受けて、フィンランドとともに北大西洋条約機構(NATO)へ加盟したことが話題になりました。これについては、以下の解説記事を読んでいただければと思います。
第二次世界大戦でも、冷戦においても中立を貫いてきたスウェーデンにとって、こうした長年の中立政策を支えてきたのが独自の高性能兵器でした。そして、その代表例ともいえるのが、世界最速の射撃能力を誇る「アーチャー自走榴弾砲」です。
⚪︎基本性能:アーチャー自走榴弾砲
重 量 | 30t |
全 長 | 14.1m |
全 幅 | 3m |
全 高 | 3.9m |
乗 員 | 4名(最低2名でも可) |
速 度 | 通常:時速65km 最高:時速90km |
行動距離 | 650km |
兵 装 | ・52口径155mm榴弾砲×1 ・遠隔操作式12.7mm機関銃×1 |
射 程 | 通常弾:30km ベースブリード弾:40km GPS誘導砲弾:60km |
発射速度 | 毎分8〜9発 |
射 角 | 仰角:70度 俯角:-1度 左右:85度ずつ |
価 格 | 1両あたり約6億円 |
スウェーデンとノルウェーが共同開発したトラック型のアーチャー自走榴弾砲は、あのボルボ・グループの車体を採用しており、その荷台に155mm榴弾砲を載せた形です。
自動装填装置のおかげで弾薬装填から射撃まで全て機械的に行われるため、乗員は防弾ガラスに守られた車内から操作するのみ。しかも、この無人砲塔がもたらす高速射撃性能は毎分8〜9発にもなり、GPS誘導弾を使った精密射撃もできます。
また、同じ目標に対してそれぞれ違う弾道で連続射撃すれば、最大6発による同時弾着を行えます。
「高速・長射程・精密」の3点を実現したなか、弾薬搭載量については砲塔右側に約20発分を収容して、自動装填装置で次々と装填される仕組みです。
すなわち、全力射撃したら2分半ほどで撃ち尽くしますが、給弾作業も同じく機械化することでわずか10分しかかかりません。
ただ、いくら高速射撃に長けていても、現代砲兵戦は位置が特定されやすく、頻繁に陣地変換する「シュート・アンド・スクート」が求められます。
アーチャー自走榴弾砲は射撃準備と撤収にもそれぞれ30秒ほどしかかからず、短時間での連続射撃後は敵の反撃前にさっさと逃げられます。そして、この一連の流れでは乗員が外に出る必要がありません。
このようにアーチャー自走榴弾砲はシュート・アンド・スクート戦術にはピッタリなわけですが、さらに特筆すべきはその俊足ぶりです。
通常時は時速65kmほどで運用される一方、いざという時は舗装道路を時速90km近くで駆け抜け、北欧の気候を考えて約1mの積雪も走破できます。
高性能なのに売れない?
このようにアーチャー自走榴弾砲は優れた射撃性能と機動性を持つものの、運用しているのはスウェーデンだけです。
共同開発したノルウェーは24両を導入予定だったところ、納入時期の関係で韓国製のK9自走榴弾砲に切り換えました。また、クロアチアも購入話を進めていましたが、こちらは価格面でドイツのPzH2000自走榴弾砲を導入することになりました。
よって、いま運用されているのはスウェーデン陸軍の48両にすぎず、追加購入で72両まで増えるとはいえ、意外にも輸出実績はありません。
ただ、現時点でも世界最高峰の自走砲であるのは疑いなく、総合評価では陸上自衛隊の最新自走砲「19式装輪自走155mmりゅう弾砲」さえを上回るでしょう。
そんなアーチャー自走榴弾砲はウクライナに対しても12両が供与されて、同じく提供されたフランスのカエサル自走榴弾砲などの火砲戦列に加わりました。
西側兵器が入り乱れている戦線に投入されたところ、損失も出てはじめていますが、シュート・アンド・スクート戦術を使ってウクライナ側に少なくない戦果をもたらしてきました。
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