防御力より機動性を優先
自衛隊では「74式戦車」が2024年に退役したものの、ともに行動すべく開発された「73式装甲車」は現役のままです。計338両の生産車両のうち、その大半が北海道に配備されており、貴重な装甲輸送車として使われています。
- 基本性能:73式装甲車
重 量 | 13.3t |
全 長 | 5.8m |
全 幅 | 2.9m |
全 高 | 2.21m |
乗 員 | 操縦4名+同乗8名 |
速 度 | 時速60km |
行動距離 | 約300km |
兵 装 | 12.7mm機関銃×1 7.62mm機関銃×1 3連装煙幕発射弾×1 |
価 格 | 1両あたり約1億円(当時) |
73式装甲車はキャタピラ式の車体を持ち、不整地で戦車に随伴しながら、最大8名を運べます。古そうな見た目とはいえ、時速6kmで渡河する「浮上航行機能」を備えており、その能力は意外にあなどれません。
ただし、浮上航行には30分以上の準備時間がかかり、途中で沈む車両が多発するなど、その実用性は疑問視されてきました。
実用性という意味では、車内から外に小銃を撃つべく、左右にガンポートがありますが、これも実際に役立つかは分かりません。しかも、ガンポートは装甲の弱点部分になりやすく、あまり使う見込みがないならば、最初からない方が無難です。

鈍重な装甲より機動性を優先したところ、アルミ合金の車体は小火器しか防げず、重機関銃以上、あるいは砲弾の破片となれば、本当に耐えられるか怪しいです。
一方、NBC兵器(放射性物質・生物・化学)への防護力があるなど、現代にも通用する部分はあれど、自爆ドローンが飛び交い、即席爆弾が並ぶ戦場では厳しいでしょう。
なお、いまも貴重な装甲兵員輸送車ですが、半世紀以上も前の車両になるため、当然エアコンはついておらず、乗り心地は快適ではありません。
価値がある不整地走破力
では、この旧式装甲車はなぜ現役なのか?
ひとつは後継の96式装輪装甲車は単価が高く、73式装甲車を全数更新できなかったから。優先配備される第7師団(唯一の機甲師団)でさえ、いまだ73式装甲車を使っています。
もうひとつの理由として、73式装甲車の不整地走破能力が考えられます。
全体性能では96式装輪装甲車の方が高いとはいえ、タイヤ式はキャタピラ式より不整地走破力で劣り、73式は古くても意外に役立ちます。たとえば、82式指揮通信車(装輪式)に代わり、不整地に強い指揮車として使うことも多く、簡易の屋根をつければ移動指揮所に変身可能です。
旧式にもかかわらず、まだ利用価値があるわけですが、これはアメリカの「M113装甲兵員輸送車」の例からも分かります。M113は古い装甲車でありながら、ウクライナに多くが供与されており、貴重な装甲戦力として活躍してきました。
装甲輸送車である以上、現代戦では多少なりとも役立ち、「無いよりはマシ」に尽きます。それゆえ、新型装甲車で一気に更新でもしない限り、73式装甲車も同じ理由で最後まで運用されるでしょう。
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