巡視船としては異例の重武装
核燃料をテロリスト等から守るために造られた「しきしま」は、船の前後に2基の35mm連装機銃、艦橋前の左右に2基の20mmバルカン砲を配置していますが、従来の巡視船と違って射撃指揮装置を使用した遠隔操作が可能となっています。
35mm機銃はスペック上は毎分550発、約5,000mの射程を誇りますが、連装にすることで火力を強化していて、海賊やテロリストが使う小型船舶であれば十分に撃破可能です。
このように巡視船として異例の重武装であり、その火力は今までの海保装備と比べても強力です。それでも核燃料を守るには「心許ない」という指摘がありました。
しかし、少なくとも軍艦以外であればそれなりの損害を与えられ、海賊やテロ組織ならば撃退できます。それ以上の相手といえば、もはや国家機関になりますが、そうなれば海保の手には負えず、海上自衛隊の出番でしょう。
2番艦の「あきつしま」は40mm機関砲を搭載(出典:海上保安庁)
ほかにも対空レーダーを装備するなど、当時の巡視船としては珍しい装備を導入しました。建造当時は対空レーダーを装備した唯一の巡視船で、このレーダーも海自の護衛艦が使っていたものを改良したタイプでした。
さらに、2機のヘリコプターを搭載できる航空運用能力を持ち、海上における航空拠点として重宝されています。
むろん、海上救難も担う海保の巡視船なので、警備艇2隻、全天候型の救難艇2隻を搭載しており、ヘリと組み合わせれば、非常に高い救難能力を発揮します。
船の構造も外洋での長期航海と任務の特殊性を考慮して、軍艦に準じた設計となっており、艦橋の窓を含む外回りの多くが防弾仕様となりました。
また、対テロを意識した情報流出防止のため、「しきしま」の乗員は数名の幹部以外は名簿に載っておらず、秘密主義を貫いているそうです。
このように特殊任務を見据えたことで、巡視船としては異例の重武装、各種能力を与えられた「しきしま」ですが、実際に核燃料を護衛したのは「1回だけ」で、それも就役直後の1992年11月でした。
このとき、フランス出港時に環境活動家の船による体当たり攻撃を受けたものの、強固な船体のおかげで任務には全く支障がありませんでした。
その後、プルサーマル計画が延々と進まず、2011年の福島原発事故によって原子力発電そのものが難しくなり、「しきしま」の出番は途絶えました。
本来役割がなくなった「しきしま」は、長距離航行力と航空運用能力を生かして、遠方へのパトロールや東南アジアや太平洋諸国へ派遣され、近年は中国海警局に対抗するために尖閣諸島海域で活動しています。
質・量ともに強化された中国海警局の前では、海上保安庁も劣勢気味であり、中国の大型船に対抗できる貴重な戦力として「しきしま」に再び期待が集まりました。
当初は延命工事でしのぐつもりだったところ、就役から30年が経過した船体は老朽化が相当進んでいたらしく、代わりの大型巡視船を建造する方針になりました。
しかし、その後「準同型船」といえる「あきつしま」や最新鋭の大型巡視船「れいめい型」が建造されたものの、結局「しきしま」の代替という扱いにはなっておらず、「しきしま」は今なお現役のまま。
これは、ますます増強する中国海警局に対抗するべく、巡視船12隻による「尖閣領海警備専従体制」の確立を優先した結果です。
老朽化したといえども「しきしま」は今でも数少ない大型巡視船です。よって、大型化する中国船に立ち向かうためにも、本来は引退目前だった「しきしま」も海保の貴重な大型戦力として活動を余儀なくされました。
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