日本版ハンヴィー
陸上自衛隊では歩兵(隊員)を運ぶためにさまざまな車両を運用していますが、なかでも一般人にもよく知られているのが「高機動車」です。
- 基本性能:高機動車
重 量 | 2.64t |
全 長 | 4.91m |
全 幅 | 2.15m |
全 高 | 2.24m |
乗 員 | 最大10名 |
速 度 | 時速125km |
行動距離 | 443km |
価 格 | 1両あたり約770万円 |
高機動車は1993年から配備が始まった人員輸送車両で、あの世界のトヨタが開発を担い、生産は日野自動車が行なっています。
「高機(コウキ)」と呼ばれる一方、米軍のハンヴィーに似ていることから「ジャンビー」という愛称も付けられました。
しかし、高機動車がハンヴィーと違って装甲がなく、同じ陸自車両の軽装甲機動車と比べても、その防弾性能はほとんど期待できません。その代わり、機動性優先の設計は軽快な動きと最高速度125kmという性能をもたらしました(満車時は時速100km)。
また、最近は海外派遣向けの車両として、防弾ガラスと防弾板を装備した「II型」というバージョンも登場しました。
人員輸送力では通常定員が8名のところ、つめて座れば1個分隊にあたる10名まで乗れるそうです。そして、大きい車幅のわりにはCH-47J大型ヘリに載せられる空輸性も持ち合わせています。
ヘリにも載せられる機動性(出典:陸上自衛隊)
さて、高機動車の最大の特徴といえば、その強力なエンジンでしょう。
高機動車は4つのタイヤ全てに力を伝える四輪駆動(4WD)の車両で、戦車と同じ最大60%もの登坂能力を誇ります。すなわち、急勾配でも楽々と登れるわけですが、参考までに「ベタ踏み坂」で有名な島根・鳥取の江島大橋が6%ほどです。
このパワフルな力を持つ高機動車は、大火力の「120mm重迫撃砲」を牽引したり、荷台に対空ミサイルを積んだりするなど、さまざまな役割を担います。
ところで、陸自車両といえば、快適性とは無縁のものが多いですが、高機動車は「マシ」な部類に入ります。
これは市販のSUVに寄せて作ったところ、運転手を補助するパワー・ステアリング機能が付いていたり、座席も少し柔らかみがあってリクライニングできるからです。
一方、残念ながらエアコンは海外派遣向けの一部車両にしかありません。
このようにエアコンがないという欠点はあるとはいえ、機動性に長けた高機動車は総生産数が3,000両を超えて、すでに普通科連隊への配備は完了しました。
特科や通信部隊への導入も進むなか、後継については話が出ておらず、耐用年数がきた車両は新しい高機動車で更新されてきました。よって、高機動車の後継は新規生産の高機動車ということになります。
中古品の行方と民間仕様
軍用車としてはそこそこの乗り心地なので、購入を希望するマニアも一定数います。ただ、一般への中古販売は許されておらず、耐用年数を超えたものは入札にかけられてスクラップ業者に払い下げられます。
このとき、悪用や転売を防ぐべく、落札後は「破壊」せねばなりません。
ところが、ウクライナ侵攻でロシア軍が使っているのが確認されたため、中古車両の横流しが発覚しました。これは破壊・解体すべきところ、スクラップ業者が従わずに海外輸出したのが原因です。
隊員を乗せた高機動車(出典:陸上自衛隊)
どうしても入手したければ、高機動車の民間バージョンを中古市場で見つけるしかありません。
もともとトヨタが開発したこともあって、高機動車は「メガクルーザー」の名前で一時期は民間販売されていました(生産は終了済み)。
厳密にいえば、高機動車とは異なりますが、航空自衛隊と海上自衛隊が改造して使うほどの公認車両で、ほとんど高機動車といえる存在です。
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